秋晴れなので、タラワラ美術館まで
- 鉄太 渡辺
- Apr 5, 2021
- 6 min read
2021年4月3日
メルボルンはイースター、復活祭の四連休です。しばらく雨ばかり降っていましたが、この連休は秋晴れが続きました。
連休の真ん中の土曜日、メルボルン東の郊外ヒールスビル近くにあるタラワラ美術館へ行くことにしました。シティに住んでいる娘も連休で帰って来ているので、妻と娘と3人で出かけまし た。今回はタラワラ・ビエンナーレ展が開催されていて、実は妻の作品も展示されているので楽しみです。娘と妻はせっかく出かけるのだからと、少しお洒落をしていますが、私は普通のポロシャツで出かけました。


途中のヤラグレンという田舎町で、チーズを作っているヤラバレー・デイリーというデリカテッセンに寄って早めの昼ごはん。https://yvd.com.au
ヤラバレーにはワイナリーがたくさんあって、酒飲みには楽しい場所ですが、僕は3年前に酒をやめたので、ワインにはもう縁がありません。ここら辺りでは近年はワインだけでなく、地ビールやジンなども作っていて、まだ酒を飲んでいたら酒蔵を訪ねて歩くのもさぞ楽しかったろうにと少し残念ですが。

ヤラバレー・デイリーは一見工場のような外見で、ここがデリであると知らなければ素通りしてしまうでしょう。こうやって外見を飾らないのがオーストラリアの美意識かも。わざと外見を古いままにしてある店がたくさんあります。英国やヨーロッパ諸国などでも外見は古くて中は新しくという美意識がありますが、英国やフランスなどは王朝の歴史が長いですから、古くても、すごくお金がかかってそうな場所が多い気がします。オーストラリアにはそういう歴史はないので、逆にお金がかかってないように見せるのが粋のようです。古い納屋、農家、物置、農機具、昔の住宅などなど。古くても高級なロールスロイスやジャガーに乗るか、四駆のトヨタのトラックを大事に修理して乗り続けるかの違いかもしれません。

ヤラバレーデイリーのチーズは、ソフトチーズが主です。「農夫のプラター」という盛り合わせを頼んだら、8種類のチーズが出てきました。半分が牛のチーズ、半分がヤギのチーズです。ヤギのチーズなんか臭そうだなと思う人があるかもしれませんが、実はとても上品であっさりした味です。臭みは全然ありません。盛り合わせには、クインスのペースト、オリーブの実、フランスパンとクラッカーがたっぷりついていて、3人では食べ切れないくらいの量でしたが、おいしいので全部食べてしまってお腹がいっぱいになりました。ここへは、日本からの客人が来ると必ず連れてくるので、農場の風景を見ながら出来たてのオーストラリアのチーズを食べたければ、ぜひメルボルンに遊びに来てください。
お腹もできたので、タラワラ美術館に向かいました。秋晴れの行楽日和だから、たくさんの人出です。以前は移民系の人たちは街中の決まった場所にかたまって暮らしていて、あまり郊外の美術館などには来なかったものですが、今はこういう場所にもアジア系、アフリカ系、アラブ系、ラテン系など、あらゆる人種の人たちが来るようになりました。見れば、フィリピン人と思われるグループが、並木に積もった落ち葉の中で歓声を挙げて写真を撮り合っています。彼女たちの来ているドレスが色鮮やかで、秋の景色の中でとても綺麗です。私たちも早速写真をパチパチ撮りました。

タラワラ美術館は大きなワイナリーが経営しているプライベートの美術館ですが、質の高い展覧会を行うことで定評があるようです。今年のタラワラ・ビエンナーレのテーマはSlow moving water 「ゆっくりとした水の流れ」です。これは、メルボルンを流れるヤラ川の名前にちなんだテーマです。妻と美術仲間のディランは、二人でSlow Art Collectiveという名前で活動しているので、この展覧会のテーマと波長がぴったり合っていると言えます。https://www.twma.com.au/whats-on/


妻たちの作ったインスタレーションは、美術館を見上げるスロープの中腹にありました。色とりどりのロープと竹の櫓を組み合わせたカラフルな作品です。展示してあるだけでなく、見に来た人が自分たちもロープを結んだり、組紐のように編んだりして制作に参加できるようになっています。今日も、たくさんの人が楽しそうに制作していました。美術館の中にも「ゆっくりとした水の流れ」に関連した内外の現代美術の作品がたくさん陳列してありました。ビデオ作品あり、絵画あり、彫刻やインスタレーションがあり、しばし、子供に戻ったような好奇心で作品を観て歩きました。「現代美術はよく分からない」と言う人がたまにありますが、(現代美術家ともう30年以上も所帯を持って来た私に言わせれば)「分かる」必要など全然なく、美術作品は何かを感じられればいいのだと思います。面白ければ面白い、好きじゃなければ好きじゃない、それで結構。大事なのはフィーリングです。批評家にでもなりたければ、もちろんいろいろなことを分からなければなりませんが。

今回は、妻の作品が展示してあることもあり、何人か友人が観にかけつけてくれました。美術館の入り口で出会ったのは、日本人のEさんとそのお友達です。Eさんは古い友人で、元小学校の教員です。近年大病になってとても大変だったのですが、今はすっかり回復して元気になりました。教員も昨年退職され、今はコミュニティー活動に精を出し、美術館に行ったりワークショップに積極的に参加して生活をエンジョイしています。元気になった彼女の姿を見て、とても嬉しくなりました。
そろそろ帰ろうと車に乗りこんでいると、入れ違いにうちの近所のリズとルイーズもやって来ました。ルイーズは娘の同級生のお母さんです。リズも隣人ですが、昨年10月、コロナのロックダウンの真っ最中にご主人のダーシーを白血病で亡くしました。コロナ規制で普通に葬儀もできず、とても気の毒でした。亡くなったダーシーは、環境保全の活動家で、私たちの暮らすダンデノン山の自然保護に貢献した人でした。リズは、「私も毎日雑草抜きをしているの。そうやってダーシーの遺志を受け継ごうと思って」と日に焼けた顔をほころばせました。リズも元気そうで安心しました。「ダーシーは、ハロウィーンに亡くなったから、今年はその時に一周忌をする予定だから、今度は来てね」とリズは別れ際に言いました。
「日本にも『お盆』というお祭りが8月にあって、亡くなった人の霊が故郷に帰ってくるんだよ。きっとダーシーもハロウィーンにみんなに会いにくるね」と、僕は言いました。「そうね、きっと帰ってくるわね」とリズは嬉しそうに笑いました。
そう言えば子供の頃、いつもお盆の時は亡くなった母がナスやキュウリで動物を作って門口に飾り、その脇で迎え火を焚いていたことを思い出しました。感謝祭にお盆のことを思い出すなんて変ですが、とても懐かしい気持ちになりました。
こう言う素晴らしい秋晴れの日には、天国のすぐ近くにいるような気になります。

真っ赤に染まったブドウの葉が綺麗でした。




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