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ブリスベンまで 。 あるいは、空港ですごす優雅な日曜日

2018年9月30日


息子の所属するサッカーリーグの決勝戦を観戦するため、クイーンズランド州ブリスベンに4泊5日間行くことになった。息子は州代表チームのフォワードとして出場する。ブリスベンまで、息子はチームメイトたちとカンタス航空で飛び、私と女房はタイガー航空という格安会社で行くことになった。2時間半の空の旅。どちらも朝7時ごろ発の便なので、空港に5時半に着くように、まだ暗いうちに起きて、えっさかほっさか家を出た。ところが出たとたん、うす暗い山道で、でっかいカンガルーが、よろよろと道のまんなかに登場。突然だったので、急ブレーキを踏んだが間に合わず、「ドーン!」と接触!「ああ、やっちゃった」と、すぐに車を止めてカンガルーはどこかと見渡したが、姿が見当たらない。どこかにそのまま走り去ったらしい。何とタフなやつ!幸い、車のフェンダーもつぶれてない(みたいだったが、暗くてよく分からない)。これが人間だったらシャレにならないが、急ぐので空港へ。


空港では、長期パーキングへ車を入れ、出発ターミナルへ。もうチームメイトたちが集まっている。息子をチームに預け、私と女房は、タイガー航空のカウンターへ。


さて、カンガルーは轢いたものの、どうにか時間通り空港まで着けた。やれやれ。だが、昨日はオーストラリアン・フットボールの決勝戦がメルボルンであったから、タイガー航空のカウンターは、オーストラリア各地へ帰る人たちで長い行列だ。係員が大わらわで対応している。しかも並んでいたら、「7時のブリスベン行きは、機材の故障でキャンセルです。代替便のご案内は、お客様のケータイにメッセージします」というアナウンス。


「うっそー? がーん!」が私と女房の反応である。私たちはメルボルン空港に足止めだ。幸い、代わりの便の案内はすぐに届いた。午後3時のバージン航空便。ただ、午後3時まで8時間もある。今日中に行ける便があっただけ良いが、8時間待つのは辛いぞ。


いったん家に帰ろうかとも思ったが、車はもう長期パーキングに入れてあって、4日分払っちゃったから、もったいない。高速代ももったいない。ガソリン代ももったいない(最近、すごく高い)。そこで、空港で粘ることに。八時間は長い。でも、愛する女房と二人だから、どうにかなるだろう。だって、私たちはつい先週、結婚29年を迎えた、まだまだ「熱々」のカップルだ。29年経っても、語り合うことはいくらでもある。退屈なんてしないだろう。


さてと、3時起きで家を飛び出してきたから、朝ごはんも食べてない。女房のケータイも「朝ごはん」充電が必要なので、近くのカフェへ。先に飛び立つ息子へ、我々が遅れる旨を連絡。ブリスベンで泊まるエアB&Bへも連絡。一緒にエアB&Bに泊まるチームメイトのお父さんのピーターへも連絡。ブリスベンで借りるレンタカー屋へも連絡。連絡でしばし忙しく過ごす。

僕は今日一杯目のコーヒーと、スモークサーモンのベーグルサンドイッチで朝ごはん。ベーグルと言っても、ベーグルの形をした普通のパンで、本当のベーグルではない。メルボルン空港の食べ物は、高くてまずい。質も低い。


その上、このカフェには充電ができるコンセントがなかった。とにかく、ここで一時間つぶしたので、電源のあるカフェへ移動。二階の国際線出発ロビーのカフェにコンセントを発見、ここへ入る。ここで本日2杯目のコーヒー。ブラックを頼んだら、女房は「濃くて飲めない」と言う。そして、向かいのマクドナルドのカウンターにつかつか歩み寄り、無料でミルクをせしめてきた。こういう時は女房はしぶとい。


私は、することがないので本屋へ行って立ち読み。空港の本屋には、ろくな本はない。ブロックバスターのペーパーバックばかり。それでも、どうにか15分。トイレに入り、じっくり手を洗う。5分もかからない。


カフェにもどり、フェイスブックに「メルボルン空港で、飛行機がキャンセルになったので、八時間潰す羽目に」みたいなことを書く。日曜日の朝8時、返事なんてこないと思ったら、10分くらいで4、5人からメッセージ。口の悪いオーストラリア人の友達が、「タイガー航空なんて、行っても行かなくても良い所に行くときだけ乗る航空会社だ。別れた妻の結婚式とか」だって。笑えたので、女房にこのメッセージを伝えると、「そうよ、その通り。あんたは、このブリスベンのサッカー観戦には、いまいち乗り気じゃなかったから。可愛い息子の晴れ舞台なのに!」うーん、そんなつもりはちっともないのだが、確かに熱狂しているとまでは言えない。だからと言って、タイガー航空がキャンセルになったのは、私のせいではない。


見れば、乗り換えることになったバージン航空のカウンターが空いている。そのすきに、もっと早い便がないか聞きに行く。受付のおばちゃんは、「ごめんなさいね、今日は混んでいるから3時の便まで空きはありません」だって。言葉は丁寧だが、全然すまなそうではない。


カフェに戻る。ここまでで二時間半。女房は携帯を充電しつつ、パソコンで息子のサッカーの写真を整理している。作業に集中している女房は楽しそうだ。私はすることがない。そこで、あたりを見回して、社会観察をすることに。


いつも思うのは、どうしてオーストラリアには、こんなに太った人が多いのかということだ。太っているのに、マクドナルドなどで、さらに太るための食事を摂っている。マクドナルドは、こうして太った人をさらに太らして、お金儲けをしている。悪いことだ。


メルボルン空港で働いている人には、いろいろな人がいる。でも、ここで働いている人には、ふしぎと太った人が少ない気がする。マクドナルドやカフェやなんかの従業員は、アジア系や中東系の若者がが多い。今わたしたちが、ケータイの充電でお世話になっているカフェで働いているのも、中国系のような兄ちゃんとレバノン系みたいな姉ちゃんだ。二人とも、かなりルックスはいい。働いている間に恋仲になったりする可能性もあるんだろう。しかし、次から次へとお客が来てコーヒーを注文するから、ふたりはコマネズミのように働くばかりで、雑談する暇もなさそうだ。がんばれ、若者!


一方むかいのマクドナルドは、相変わらずたくさんの人間を吸い寄せている。いつだったか、どこか田舎へ行った時、ドライブしていて眠くなり、どうしてもコーヒーを飲まないと事故りそうになった。そこでカフェを探したが、運悪く日曜の午後で、オーストラリアの田舎は店なんか開いてない。仕方なく、マクドナルドへ入って、カウンターでコーヒーを頼んだ。そしたら、ニキビ面の、非常に頭が悪そうな少年が、「あそこの機械で注文してから、カウンターで受け取れ」と、命令口調で喋った。そこで、私は機械みたいなもののボタンをいくつか押して待ったが、待てど暮らせどコーヒーは出てこない。その間にも、田舎人間が後から後からやってきて、見るも恐ろしい、高脂肪の餌のようなものを買って、嬉しそうに食べている。それを見ていると恐ろしくなってきて、もうコーヒーはどうでも良くなり、そのまま出てきてしまった。それが、私の近年限られたマクドナルド体験だ。


メルボルン空港の時計は、今日はゆっくりとしか進まない。仕方がないので、またトイレに行く。年をとるとトイレが近くなるのが剣呑だ。出かけるときは、まずトイレ。到着してもまずトイレ。飛行機に乗る場合も、トイレに行きやすいように通路側の席を取る。3席の真ん中に座るのは自殺行為だ。今日は2時間半のフライトだから、我慢できるだろうか。やや不安だ。今日は、待ち時間が腐るほどあるから、待っている間、頻繁にトイレに行っておこう。


出発まであと5時間半。考えてみれば、8時間もあれば、メルボルンから東京までほとんど行けてしまう。メルボルンを飛び立って八時間といえば、もう小笠原諸島くらいだ。その長い時間、私と女房はメルボルン空港のカフェに座っている。


私は、小笠原諸島にまだ行ったことがない。でも、いつかは行ってみたい。息子も小笠原でダイビングとか釣りとかしたいと言っている。友達で釣り仲間の、調布のマンションで暮らしているM城さんも、小笠原を見てから死にたいと言っている。だから、いつかは小笠原に行きたい。行かなくてはならない。小笠原には、マクドナルドはないだろうし、太った人間もあまりいないだろう。そういう場所こそ、私が本当に行きたい場所だ。小笠原諸島へはタイガー航空は飛んでない。船で何日もかけないと行けない。本気で行こうと思わないと行けない場所、それが小笠原諸島だ。


そういう大事なことが分かったのだから、メルボルン空港に足止めを食った甲斐もある。時計を見る。出発まで4時間。女房は、写真の整理にもさすがに飽きたのか、トイレに行った。オーストラリアのトイレには、ウォッシュレットがない。だから私は、この20年はウォッシュレットなしで暮らしてきた。今の日本人にしたら信じられないことだろう。石器時代のようなものだ。でも、オーストラリアに暮らす2500万人のほとんどは、今日もウォッシュレットなしで暮らしている。これからもなしで暮らすのだろう。どうしてオーストラリアでは、そして、海外の多くの場所では、ウォッシュレットが普及しないのか? それに関してはいろいろな議論があるらしい。でも、その一番の理由は、文化の違い、生活習慣の違いだと、いつだったかメルボルンの新聞に出ていた。決して貧富の差ではないそうだ。現にオーストラリアは豊かな国だし、国民の平均所得は、日本より高いくらいだ。だのにウォッシュレットは普及していない。もちろん中には、日本に旅行したりして、その魅力(魔力?)にとりつかれた人はいる。友人のアランとパトリシアがそうだ。何度も日本へ旅行し、もはやウォッシュレットなしでは生きられなくなってしまった。アランは水道工事屋だから、ウォッシュレットの取り付けなど朝飯前で、日本から取り寄せて、ちゃちゃっと取り付けてしまった。


でも、私は苦節20年、ウォッシュレットなしで生きてきた。ところが今年7月、コペルニクス的転換が起きた。日本から来た友人U君が、携帯式のウオッシュレットを見せてくれたのだ。彼はこれを持って世界中を旅している。これとケータイさえあれば、どんな場所に行っても、たいがいのことは大丈夫だと太鼓判を押した。私は、感動を抑えきれず、U君の携帯式ウォッシュレットを手に取った。U君は、それを僕にくれると言った。しかし、いくら親しくても、使い古いしの携帯ウォッシュレットを友達からもらうのはどんなものだろう。だから「今度、日本に帰ったら買うから」と、遠慮しておいた。


8月、私は日本に帰った。調布のM城さん宅に旅装を解いた私は、すぐさま調布駅前ビックカメラに走った。そこには、もちろん携帯ウォッシュレットが売られていた。2500円だった。もっと早く買えばよかった。とにかく、それを買って帰ってM城さんに自慢すると、M城さんは「そんなの、俺だって持ってるぜ」と、彼の愛用品を見せてくれた。ショックだった。携帯式ウォッシュレットを知らなかったのは、私だけだった。


メルボルンに携帯ウォッシュレット持ち帰ると、予想通り、私のオーストラリア生活のQOL(生活の質)は非常に高くなった。毎朝、白い筒状のそれにお湯を入れ、私は小躍りしてトイレに向かうようになった。家族は、そんな私を怪訝な顔をして見ている。その使い心地にの詳細は、これ以上書かないが、一つ言えることは、携帯式ウォッシュレットに入れるお湯の温度は、熱すぎると火傷をすることだ。これは注意しなくてはいけない。私は一度、魔法瓶のお湯を入れて、それを冷水で薄めるのを忘れたことがある。それだけは重々注意が必要だ。


さて、後3時間。大分フライト時間に近づいてきた。そう思うと腹が減ってきた。メルボルン空港ではあまり食事の選択の幅はない。だが、このカフェのとなりでは寿司らしきものを売っている。日本の飲食店では持ち込みは御法度であるが、オーストラリアでは大丈夫だ。一応このカフェには持ち込み禁止の札があるが、客の半分は向かいのマクドナルドの食べ物を食べているし、何も買わずに、ケータイの充電だけ無料でやっていく輩もある。それでも誰も目くじらを立てない。であるから、私も寿司を買ってきて、カフェに持ち込んで食べた。うん、味もそう悪くない。もとより、メルボルン空港の寿司に期待などしていないからそう思えるのだ。「期待しなければ、絶望もしない。これが悟りというものだ」と、稲荷寿司を食べながら女房がそう言った。


さあ、後2時間。そろそろ荷物を預けて乗り場ゲートへ行く時間が近づいてきた。8時間なんて、あっと言う間だ。私たちは、カフェに広げていたパソコンやiPadを片付け、バージン航空のチェックインカウンターへ向かって、意気揚々と歩いて行った。

違う航空会社に乗ったので、窓際の席になってしまった。でも景色に見とれたせいで、トイレに行かずに済んだ。

 
 
 

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