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シャーブルックの森を歩く

2021年8月22日


ネットフリックスで『アイヌモシリ』と言う映画を見ました。北海道の阿寒湖のほとりに住むアイヌの人たちの物語で、中学生のカントという名の男の子が主人公の映画です。このアイヌの人たちが「イヨマンテ=クマ送り」と呼ばれる儀式を40年ぶりに執り行うことになり、その儀式が行われるまでの半年間あまりの出来事や人間関係を描いたものです。淡々とした調子と、北海道の自然の移り変わりがとても美しい映画でした。


その中に印象的なセリフがありました。「雨が降るのは鬱陶しいけど、雨には雨の都合があって降ってるんだ」というものです。主人公のカントが、デボと言う近所のおじさんと森でキャンプをした場面で、雨にやり込められて、掘建て小屋みたいなところで雨やどりしている時、デボがカントにふと言った一言です。


映画の中の一言ですから、練り上げられたセリフなのでしょうけど、森の中で、自然と共に何千年も生きてきたアイヌの人たちが言いそうな言葉だなと思いました。



(シャーブルックの森)


翌日の午後、友達のギャリーと二人で近所のシャーブルックの森を歩いてきました。ギャリーとはこうして時々歩きに行くのですが、一周7、8キロくらいの山道を2時間くらいゆっくり一周してきます。


シャーブルックの森は鬱蒼としたユーカリの巨木で覆われています。何度か山火事で焼けたり、伐採されて裸になったりしているのですが、その度に住民が植樹して鬱蒼とした森になっています。今は国立公園に指定され、80メートル、100メートルの背丈のユーカリが天井のようにそびえ、その下には、それよりは背の低いワトルやブラックウッドといった灌木が茂り、さらにその間を3メートルくらいのシダが生い茂っています。まるで藪の中から恐竜があらわれそうな原始時代の森のような場所です。



(シダの幾何学模様は誰が考えたのか?)


春先で天気が良いので、てくてく歩いていると汗ばむくらいです。でも、森の奥の日陰は、冬の間の雨でじめじめしていて、冷気がじっとはびこっています。地面も、泥だらけで、靴もどろどろになってしまいます。



(泥だらけの地面)


どろどろの中を、靴をグチョグチョ言わせながら歩いていると、子ども時代、雨が降った後に水たまりの中をわざわざ歩いたことや、近所にたくさんあった田んぼに、ザリガニを捕まえにいって泥だらけになったことなんかを思い出しました。


ギャリーに歩きながらそんなことを話すと、やはり子ども時代に泥だらけになったことを思い出したらしく、「子ども時代に長靴履いて、水溜りに入って遊んでいたら、最後は泥水が長靴に入っちゃって、あれは気持ちが悪かったな。家に帰ると母親に叱られるしさ」と、話していました。オーストラリアでも日本でも、子どもがやることは大して変わりません。


ギャリーと会うのは久しぶりなので、森を歩く時に話すことがたくさんあります。今日のメインの話題は東京オリンピックでした。どんな競技を見たかとか、何が面白かったかとか。


ギャリーは根っからのオーストラリア人なので、基本は、「オーストラリアの選手が勝った試合はみんな面白かった」というご意見。国粋主義と言っても過言じゃありません。僕が「サッカーは面白かったよ」と言うと、「サッカーはどのチームもパス回しばっかりだから見てて退屈。オフサイドのルールを撤廃して、ゴールをバンバン入れるようにしない限り、サッカーは面白くない」とギャリー。まあ、人によっていろいろな意見があることは認めましょう…。



(木を見上げるギャリー)


その上、「水泳、バレーボール、棒高跳びなんかも、オーストラリア選手が活躍したからエキサイトしたよ。スケボーも、オーストラリアの少年が金を取ったから良い競技だ」とギャリー。オーストラリアが金を取るから良い競技というのはどういう意見でしょうね? 


僕は「自転車のロードレースでは、僕の故郷の多摩市がコースになって、富士山まで走ったからすごく興奮した」と言うと、「自転車のレースはルールも不明だし、選手が団子みたいに固まって走っているだけだから、見ていて退屈」とギャリー。そりゃあ、ルールがわかんなければ、見ていて面白いわけじないじゃん!


挙句に、「世界で一番面白いスポーツは、オーストラリアン・フットボールだね。どうしてオリンピックの競技にならないんだろうな?」とギャリー。だって、オーストラリアン・フットボールなんて、オーストラリアでしかやってないんだから、オリンピックの競技になんてなるわけないでしょ!


こうやって書くと、なんでもオーストラリアが一番の、ちょっと嫌な奴みたいに思えるかもしれませんが、ギャリーは実はとてもいい人で、こんな話をしていても全く嫌味がありません。正直と言うか、ストレートと言うか、分かりやすいというか。だから、僕も好きなことを好きな風に話して、ストレスなしの会話を楽しみました。やっぱり、友達と森を散歩するのは楽しいです。


「そう言えば、日本人ってのは、 森を歩くことをシンリンヨクって呼んで、とても健康に良いって言うらしいね?」とギャリーが突然言いました。「シンリンヨク」が森林浴だとわかるのに3秒くらいかかりましたけど、「そうなんだよ、そう、風呂に入るみたいに、全身で森の空気に浸ることをそう言うんだ」と僕。



(蜜蜂には蜜蜂の都合がある)



見上げると、森の木々はそんな僕たちの会話を笑ってるみたいに、そびえ立っています。まるで、「健康に良いだって? 人間たちが勝手なことを言っているぜ。俺たちは、俺たちの都合でここに生えているんだ。ほっといてくれよ」と言っているようでした。




 
 
 

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