洞窟生活
- jacobgousmett
- Jun 16, 2021
- 4 min read
2021年6月16日
メルボルンは6月に入ると本格的に冬になり、雨が多くなります。時に気圧が乱れると、大荒れになり、大雨が降り、同時に大風が吹くことがあります。そんな時は布団をかぶって寝てしまえばいいのですが、雨が降って地面が緩くなり、そこへ風が吹くと、30メートルものユーカリの大木があちこちで倒れ、電線を切ったり、道路を遮断したり、家を倒壊させたりします。そんなことが大概年に一回くらいはあるでしょうか。

5月末からコロナ禍による2週間のロックダウンがあり、それも翌日は解除という晩、これでやっと好きな時に外出もでき、子どもの学校も再開し、やれやれと思っていたら、夜半から大荒れで、ゴーっと風が吹いて雨がざあざあ降り。布団に入って寝ようとしていたら電気がパチパチっと2、3回瞬いて、その後は停電で漆黒の闇です。そのうち点灯するだろうと寝てしまいましたが、朝になっても全く回復せず。ラジオでニュースを聞いたら、メルボルン東側の私たちの住んでいるダンデノン山脈から東は、昨夜の嵐でとんでもない被害になっていました。二十万軒もの家が停電、100キロほど先のラトローブ渓谷では洪水で道路も遮断、家も浸水、死者も出ているというニュースに驚愕しました。
幸い我が家は、停電の他は大した被害はなかったのですが、我が家から200メートルばかり先の家の前では巨木が2、3本倒れ、車が潰れ、電信柱が倒れ、電線が地面を這っていました。道路も遮断され、近所の人たちが総出でチェーンソーで倒れた木を切っている光景が繰り広げられていました。



私の近所の一帯は、それから五晩ほど停電が続きました。電気がこないと冷蔵庫の中の食物が心配の種。どうしようかと思っていたら、朝の散歩でよく一緒になるクリスがやってきて、親切にも「我が家はもう電気が通ったから、うちの発電機を貸してやるよ」とのこと。渡りに船とクリスの発電機を借りました。
(上から、クリスから借りた発電機、私も新しい発電機を購入、充電中のいろいろな機器)
おかげで冷蔵庫には電気が通り、携帯やノートパソコンや懐中電灯は充電ができ、大いに助かりました。ただ、エンジン駆動の発電機はやかましいったらありません。冷蔵庫を冷やしておくために昼間はずっと回しているのですが、まるでエンジン全開のオートバイがずっと庭先に止まっているような騒音。音を遮断するために発電機をベニヤ板で覆ってもあまり効果はなし。
それでも、どうにか五日間の停電を乗り切ることができました。近所でも、こんなにたくさん発電機を持っている家があったのかと思うくらい、ブーブー騒音が聞こえてきました。メルボルンの郊外は家と家が離れているので、やかましくても発電機が使えますが、街中だったら無理でしょう。うるさいので夜は晩ご飯を食べたら発電機を切り、そこから先は真っ暗な中での生活。ランタンや蝋燭を灯して、静かに暮らしました。うちの女房曰く、「まるで洞窟生活」。
寝るときに蝋燭や懐中電灯を消してしまうと、本当に真っ暗。江戸時代とか、もっと昔の電気がなかった時代は、人類は何万年も毎晩こんな真っ暗な中で暮らしていた訳です。だからきっと私たちの本能の中にも、真っ暗な洞窟で暮らしていた頃の記憶が残っているはず。その証拠に暗闇の中にいると、私は何だか懐かしい気持ちになるのです。そう言えば小さい頃も、布団の中の暗闇などで時々こんな心持ちになった記憶があります。小学生の頃でしょうか、人間は死んだらずっとこんな暗闇の中で過ごすんだろうかなどと考えて、恐ろしくて眠れなくなったこともあります。
洞窟生活、それはどんな生活だったんでしょう。いつも電気があることを前提に、今の私たちはのほほんと生きていますが、それは実は非常に脆い、幻のような暮らしなのかもしれません。大風が吹いたり、地震がきたり、山火事になったりすれば、こんな便利な生活だって吹き飛んでしまうのですから。
現にこれを書いている今も、ビクトリアでは何千軒もの家でまだ停電が続き、不便な生活をしている家庭がたくさんあります。うちの近所でも1ヶ月先も電気が来ない場所もあるそうです。
早く被害が回復することを祈っています。
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